はじめに
年末恒例、ということで。
とりあえず2019年12月~2020年11月の間にリリースされたアルバムから、独断と偏見で2020年度のベスト10を挙げておきます。
なお、私の〈Best10選出〉は、1996年に地元のレコード屋さんからの依頼で、同店舗が発行していたフリーペーパーに寄稿したものから始まっておりまして、5年前に1度中断しましたが、20年以上もBest10を選び続けてきたということになります。いやはや恐ろしい。
今年は、2月からリモートワークに切り替えたこともあり、PCオーディオの環境を強化。おかげで、今まで聴いていた音楽が新鮮に聴こえるようになり、楽しくて音楽ばかり聴いていました。そんなこともあり、リモートワーク時の私の心情もかなり反映されたランキングになったのではないかと思います。
最後に。コメントは覚え書き程度のものなので、お手柔らかにお願いします。
なお、2019年度のものはこちら。
洋楽新譜部門
1位 ブルース・スプリングスティーン『Letter To You』
2位 ボブ・ディラン『Rough and Rowdy Ways』
3位 ディオン『Blues With Friends』
4位 ヘイゼル・イングリッシュ『Wake Up!』
5位 ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース『Weather』
6位 ジェームス・テイラー『American Standard』
7位 ダン・ペン『Sweet Release』
8位 ビデオ・エイジ『Pleasure Line 』
9位 ロバート・クレイ・バンド『That’s What I Heard』
10位 エクスプローラーズ・クラブ『The Explorers Club』
次点 ザ・レモン・ツィッグス『Songs For The General Public』
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1位はボス。①は1曲目こそ、前作『WESTERN STARS』(2019年)からの流れを踏襲していたが、2曲目以降は紛れもなくボスとEストリート・バンドのアルバムだった。『RIVER』(1980年)の続きだった。ロックンロール~アメリカン・ポップス黄金期を2020年に体現したものだった。こういうアルバムをいつだって聴きたいのよ、マジで。
2位はディラン。正直にいえば、近年のシナトラ・カヴァー集などは、アメリカ音楽を勉強している身としてはすごくためになったのだが、リラックスして楽しめなかった部分はあった。だが、今回のアルバムは久しぶりにリラックスして楽しむことができた。とりあえず、『オー・マーシー』以来のディランは、革新性こそないもの、バンド・サウンドの追究、アメリカ音楽の探求という点においてはずっと右肩上がりだというのを再認識。あと、今回すごく嬉しかったのは、「Goodbye Jimmy Reed」でのブルースハープ。さりげなく伝家の宝刀を抜くディランにまいりました。
しかし、今年一番驚かされた1枚は間違いなくディオンの③。タイトルに『ブルース』とあるからブルースだけということはない。カントリーもフォークもラテンもゴスペルもここにはある。アメリカ好きならば、聴いておいた方がよい一枚だ。なお、おすすめはジェフ・ベックと共演したバラード「Can’t Start Over Again」。ディオンの歌ごころに男泣きさせられるし、ジェフ・ベックのソロがまた歌ごころあるんだわ。名演すぎるでしょ。
2018年にリリースされた『Pop Therapy』が良かったサイケ・シンセ・ポップ・デュオVideo Ageの⑧も良かった。前作にもあったシティ・ポップ感覚がより強調された印象。大好きっす。同じような手触りの音楽といえば、ガイスター『EUPHORIA』も忘れられない。
洋楽再発・発掘部門
1位 トム・ペティ『Wildflowers & All The Rest』
2位 エルヴィス・プレスリー『From Elvis In Nashville』
3位 ディオン&ザ・ベルモンツ『The Singles & Albums Collection 1958-62』
4位 プリンス
『Up All Nite with Prince: The One Nite Alone Collection』
5位 デイヴ・クラーク・ファイヴ『All The Hits』
6位 ローリング・ストーンズ『Goats Head Soup(2020 Deluxe Edition)』
7位 ブライアン・ウィルソン&ヴァン・ダイク・パース
『Orange Crate Art(25th Anniversary Expanded Edition)』
8位 G.ラヴ&スペシャル・ソース『The Juice』
9位 エヴァリー・ブラザーズ
『Down in the Bottom: The Country Rock Sessions 1966-1968』
10位 フリートウッド・マック『Fleetwood Mac: 1969 to 1974』
次点 ポール・マッカートニー『Flaming Pie: Archive Collection』
次点 ウィザード『Introducing Eddy and The Falcons』
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今年最大のニュースは、個人的にはデイヴ・クラーク・ファイヴの公式盤がフィジカルで出たことだと思う。バラバラに世に出ている曲たちが1枚にまとまったというのがとにかく嬉しい。
ただ、内容的に、一番シビれたのはトム・ペティ『Wildflowers』のデラックス・エディションだ。お蔵入りした音源やホームレコーディング音源もたっぷりで、とにかくご機嫌。骨太なバンド・サウンドが本作の肝だが、デモ音源を集めたDisc3が今回の目玉だと思う。シンガーソングライターとしてのトム・ペティの魅力を再確認できる音源集だ。
なお、『Wildflowers』デラックス盤のリリースを記念して、ジミー・ファロンの番組でシェリル・クロウが披露した「You Don’t Know How It Feels」のカヴァーがたまらなかったので、こちらも紹介しておこう。
2位は、エルヴィスが1969年にナッシュヴィルで行ったセッションをまとめたもの。ただし、収録された音源は、お馴染みの曲からコーラスやホーン、ストリングスが引かれた、いわゆるアンダブドなもの。レコーディング・セッション自体にフォーカスした企画だ。そういう楽曲ばかりなので、「あれ、いつものと違うな?」と思うところもあるが、とにかくバンドの演奏がより生々しくなっていて、そこがたまらない。
昨年からスタートしたプリンスのリマスターは今年もヤバいブツが続けざまにリリースされたが、白眉は、リマスターで音がクリアになった『Sign “O” The Times』と、そしてプリンスが神がかっていた時期の④。④は元々、かなりの高値で中古市場に出回っていたが、これで誰でも気軽に、しかも映像付きで楽しむことができるようになった。素晴らしいことだ。プリンス自身もそうだし、脇を固めるシーラ・E、メイシオ・パーカー、キャンディ・ダルファーらのパフォーマンスも脂がノリまくり。凄まじくファンキーなBOXだ。
ストーンズは『L.A.フォーラム~ライヴ・イン・1975』や『ハンプトン・コロシアム~ライヴ・イン・1981』などもあったが、Disc2の未発表音源集もあるので『山羊』を取り上げておいた。なお、キース『Live At The Hollywood Palladium』の再発は細かい部分で残念だった
今年は編集盤に収穫が多く、前述の②デイヴ・クラーク・ファイヴ以外にも、③ディオン&ザ・ベルモンツのシングル集、ミーターズ、カントリー・ロック期のエヴァリー・ブラザーズをまとめた⑨、ブルース・ロックと『噂』の間の時期のフリートウッド・マックに着目した⑩など、コレクター心理を巧みについたものが目立った。エルモア・ジェイムズがミーティア、フレア、モダンに残した全音源が収録された超弩級の『Wild About You – The Complete Meteor/Flair/Modern Singles』も凄まじかった。
邦楽部門
1位 山本精一『セルフィー』
2位 YMO『TECHNODON(Remastered 2020)』
3位 Pizzicato One『前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン』
4位 山下達郎『POCKET MUSIC(2020 Remaste)』
5位 METAFIVE「環境と心理」
6位 大滝詠一『Happy Ending』
7位 鴨田潤 featuring 寺尾紗穂『二』
8位 鈴木雅之『All Time Rock’n’Roll』
9位 ナツ・サマー『HAYAMA NIGHTS』
10位 かめりあ『Tera I/O』
次点 YOUR SONG IS GOOD『SOFT LANDING』
コメント
①は歌もの(!)の1枚。ただし、その音像へのアプローチは徹頭徹尾、山本精一さん。フォーキーでもあり、アヴァンギャルドでもあり、コーネリアス『sensuous』以来の衝撃を体験した。
②のYMO『TECHNODON』は元々好きな1枚で。まあ、リアルタイムで体験できたYMOだから、というのもあるわけだが。個人的には「Silence Of Time」からの流れが絶妙だと思っている。バランスがとれていない感じが絶妙なのだ。で、今回の砂原良徳によるリマスターだが、音がめっちゃ今の音になっていて、かっこいい。特に驚かされたのは「OK」。ベースが前に出てきたことで、曲自体がめちゃくちゃかっこいいことに今さら気付かされた。「OK」だけでも買う価値があるとは思う。
ピチカート・ワン、というか小西さんによる弾き語りライヴ②は雰囲気たっぷり。達郎さんの④はリマスターで大きく印象が変わった。METAFIVEで小山田くんがはじめてヴォーカルをとった⑤は、YMOとパーフリで10代を消費したような私にはたまりません。
⑧はDisc2のラッツのベストは当然素晴らしいとして、Disc1のシャネルズ初期曲再録とオールディーズのカヴァー(フラッシュ・キャデラック・ザ・コンチネンタル・キッズ「Good Times, Rock And Roll」やリトル・アンソニー&ジ・インペリアルズ「Tears On My Pillow」)が聴きもの。なお、「Tears~」のアレンジは、シャネルズのリミックス・メドレーを担当した小西康陽さんによるものだ。
ところで、Disc1には「夢で逢えたら」の再演が収録されているのだが、例の語り部分は声優の山寺宏一さんが担当。そして、なんと、「いまも僕 枕を抱えて眠っています」としめるのだ。アレンジもストリングスを多用したもので、感触としては、大滝さんの『DEBUT AGAIN』に収録されたヴァージョンに近く――というわけで、大滝ファンは買うべきだろう。
かめりあくんの⑩は、なんと無料でDLが可能な1枚。彼のTwitterフォロワー数が10万人を超えたことを記録して発表された1枚だ。彼が過去に通過してきたジャンルを辿るような1枚になっており、まあ、つまりはこの10年以上のクラブ・ミュージック(というかEDM)の変遷が辿れると言っても過言ではないだろう。
と、ここまで書いておいてなんだが、今年一番聴いた邦楽は、東京ディズニーランドで今年1~2月に行われた「イッツ・ベリー・ミニー」のサウンドトラックかもしれない。過去のショーで使われた楽曲をうまく繋いでいて、Dヲタとしては涙なしでは聴けないのだ。コロナもあって、パークは閉園している間、私を勇気づけてくれたのは、間違いなく本作だ。
あと、ネオアコ育ちとしては、沖野俊太郎さんがNegiccoに書いた「さかさま」もヘビロテしていた。デモトラックを貼っておくので、後は各自で聴いてくださいまし。ギタポ好きは絶対に気になるでしょ。アイドルポップスはやっぱり舐めちゃいけないっすね。