ジョニー・キャッシュ『AmericanⅣ:Ain't No Grave』

ジョニー・キャッシュ『AmericanⅣ:Ain't No Grave』

リック・ルービンのプロデュースのもと、ジョニー・キャッシュの最晩年期に録音された音源をまとめたアルバム『American』というシリーズは、キャッシュがジャンルの垣根を越えて、 自作曲も含んだアメリカ音楽を広く歌っていくという内容である。今作品『Americab Ⅵ』も当然、その路線。自作曲1曲以外の9曲は全てカヴァー。シェリル・クロウやクリス・クリストファーソンなどをカヴァーしている。

今作の中で強く印象に残ったのは、「Cool Water」。オリジナルはボブ・ノーランによるカントリー・ゴスペル。同曲は今までいくつもの名演を残されてきたわけだが、たとえばジョニ・ミッチェルは環境問題の歌として歌詞を変えて歌っていた。でも、キャッシュは歌詞をそのまま。ただ、おそらくキャッシュは歌詞の中に出てくる「私」と「驢馬」に、キャッシュ自身と先に亡くなったジューン・カーターのことを仮託しているのではなかろうかと考えさせられた。キリスト教的な天国に重きを置いて、そこに先に逝った奥さんのことを想ったのではないかと思わされたのだ。くたびれた主人公がくたびれたパートナーに聞かせているようにキャッシュが歌っていたからだ。
2006年に出たジョニー・キャッシュのごくごく私的な自宅録音音源を集めた 未発表弾き語り音源集『パーソナル・ファイル』でも感じたことだけど、キャッシュは他人の曲だろうがなんだろうが、そこにある歴史も背景も物語も全部自分のものとして淡々と描いているように感じられるのだ。確かに、声は弱々しくなって枯れてはいるけれど、そういう姿勢は生涯変わらなかったんだなと。 強く胸をうたれた。