エルヴィス・プレスリー『From Elvis In Memphis : Legacy Edition』

エルヴィス・プレスリー『From Elvis In Memphis : Legacy Edition』

『エルヴィス・イン・メンフィス』のレガシィ・エディションがリリースされた。

おさらいしておくと。エルヴィスのメンフィスでの伝説的なセッションが行われたのが1969年1月と2月。
同セッションから生まれたアルバムが『エルヴィス・イン・メンフィス』であり、同セッションの40周年を記念してリリースされたのが、今回のレガシィ・エディションである。だからといって、レガシィ・エディションは『エルヴィス・イン・メンフィス』の単純な豪華版というわけではない。今からその辺りの説明をしていきたい。
上記セッションでエルヴィスは、スタックスのスタッフであったチップス・モーマンをプロデューサーに起用して、R&Bやブルースやカントリーをごった煮にしたスワンプ・フィーリング溢れるサウンドを構築していくわけだが、ここで物にした強烈なスワンプ臭が、来るべき70年代のエルヴィスの基本路線として受け継がれていくことになる。そういう意味で、70年代のエルヴィスを語る上では避けては通れない非常に重要なセッションなわけだが、今回のレガシィ・エディションにはその「69年のメンフィス・セッションで録音された全ての曲」が収録されているのだ。
ここでさらなる説明が必要となるであろう。エルヴィスのレコーディングというのはアルバム単位ではなく、あくまでシングル単位でおこなわれており、そこで生まれた多数の楽曲が一旦ストックされて様々なアルバムに埋め草的に振り分けられていく、というのがレコーディングのやり方であった。
それを踏まえた上で説明すると。69年のメンフィス・セッションでは全32曲が録音され、そこから5枚のシングルが誕生し、アルバムで言えば69年の『エルヴィス・イン・メンフィス』と70年の『バック・イン・メンフィス』を中心とした7枚のアルバムに結果的に振り分けられていったわけだ。

ここまで説明することでようやく解っていただけたとは思うが、今回のレガシィ・エディションというのは単純な『エルヴィス・イン・メンフィス』の豪華版ではなく、前述したように「同セッションの40周年を記念してリリースされた」豪華版であるわけだ。
なので、今回のレガシィ・エディションというのは、実は「細かすぎて伝わらないレガシィ・エディション」なのだ。

ただ、エルヴィスをきちんと聴いたことがない人、エルヴィスと言えばロカビリーだぐらいにしか思っていない人には、まずはここから聴いてもらいたいとは思ったりもする。
ここで聴かれるスワンプ・フィーリングからも解るように、エルヴィスという人はロックンロールだけでなくロックの時代においても最も刺激的であったというのがよく解る音源だからだ。そして、そこで聴かれる完璧なエルヴィスのボーカル。正確にコントロールしながら表現される歌に誰もが打ちのめされるはずだ。

なお、今回のアルバムには未発表音源はまるでなし。 シングルのオリジナル・モノ・マスターぐらいしか、レアと言えるレアな音源はない(ただ、これが相当音が良くて、僕としては心を震わされたわけだが)。
これは、69年のメンフィス・セッションで生まれた公式音源を並べるということに重きを置いたからこその選曲がなされたからであろう。