『カウボーイ・ビバップ』の大ファンだった私は、もちろん『坂道のアポロン』も楽しく観ている。
同アニメに関しては、第1話Aパートの屋上での喧嘩シーン。そこでのカメラの揺れ具合で、一発で引き込まれてしまった。「あ、渡辺信一郎さんだ! 」というのがあそこに強く出ていたと思う。
他には第2話での教会のシーン。ステンド・グラス越しに光が射しこんでくる箇所の画面の色合いに、『カウボーイ・ビバップ』第5話「堕天使たちのバラッド」を思い出してしまった。
そういうかつての渡辺信一郎さんの仕事との比較というか。そういう観点で私は『坂道のアポロン』を楽しんでいる部分はある。
後は細かい音楽関係の描写。
レコードのレーベル面がちゃんとそのレコードのものになっていることには驚いた。
たとえば第2話。西見薫が買ったアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの『モーニン』。レーベルには「BST84003」と書かれているのだ(つまりステレオ)。
でも、やはり一番強く惹かれるのは、演奏シーンでの迫力とか、絵と音との連関・衝突と即興。アニメーションを観る上で得られる快感を強くおぼえた。
ところで。第4話のバーでのライヴ・シーン。
酔っ払いが「I Can’t Stand That Coon Music Jazz! 」と怒鳴るわけだが。この台詞が、アメリカ音楽好きとしてはすごく面白かったので、この台詞についてちょっと解説してみようと思う。
Coonっというのはアライグマのことである。そして、俗語で「黒人」のことを指す。ただ、これにはもっと別の意味も付加される。
元々、黒人はアライグマを食べるという偏見による設定が、かつてのミンストレル・ショーにあった。ミンストレル・ショーというのは、黒人を風刺したような音楽付きの寸劇とでも言うべきもの。ゆえに、その名残で19世紀後半は黒人が歌う曲をCoon Songと称した。
時は移って20世紀前半。ヴォードヴィルで、白人が黒く顔を塗って黒人風に歌うというショーが流行った。そして、そういった芸風の芸人を「Coon Shouter」と呼んだ。ゆえに。あの酔っ払いの野次には「黒人風のジャズは我慢なんねーよ」という意味と同時に、「何おめーら黒人ぶってやがるんだ」という意味もあるわけだ。
一方通行でドロドロとしている男女関係の行方も確かに気になるけども、音楽面でのしっかりした作り込みも楽しめる作品なので、そこいらも読み込んでいきたいなと思う。