映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』で描かれた時代について

映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』で描かれた時代について

映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』のBlue-rayがめでたく発売された。

ご存知のように、同作は韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』を下敷きとしたもの。監督と脚本は大根仁さんだ。
リメイクにあたって、舞台を1980年代後半の韓国から1990年代の東京に変更。さらに、女の子たちをコギャルのグループとして描いたことが特徴となっている。

INTRODUCTION

あらすじはこうだ。

2017年のある日、主婦の阿部奈美は、病院でかつての親友・芹香と再会する。しかし、芹香は末期がんに冒されており、医師からも余命一ヶ月程度だと宣告を受けていた。
芹香は奈美に、死ぬ前に高校時代にいつもつるんでいた仲間たちに会いたいと伝える。奈々、裕子、心、梅。――かつての仲間たちとは高校時代のある時期からバラバラになっていたのだ。
奈美は芹香の願いを叶えるため、仲間探しを始めるのだが――

物語は過去(1990年代後半)の高校時代と現在(2017年)を交互に描く形で進む。
“コギャル”としてキラキラしていた彼女らと、20年経って様々な問題を抱えながら現在と折り合いをつけている彼女らが対称的に描かれる。その対比はなかなか強烈だ。
20年経って、昔の仲間は今どうなっているのか。なぜ、みんな疎遠になってしまったのか。そういった謎も引きとなって、ミステリとしても楽しめる作品だ。

大根監督らしく、音楽の使い方も絶妙で、trf「EZ DO DANCE」や安室奈美恵「SWEET 19 BLUES」、PUFFY「これが私の生きる道」など、90年代当時のヒット曲が効果的に使われている。
当時のコギャル・ファッションなども含めて、90年代のあの空気が作品でうまく再現されているのも、本作の魅力である。

主演は篠原涼子と広瀬すず。現代パートの奈美を篠原涼子、過去パートの奈美を広瀬すずがそれぞれ演じている。
過去パートでは、小室系の楽曲が多数流れるわけだが、いわゆるTKブームを決定づけた「愛しさと切なさと心強さと」を歌った篠原涼子が、現代パートで奈美を演じているのが面白い。

映画で描かれた時代について

映画では、奈美たちの高校生時代がいつのことなのかを明確に示してはいない。監督の大根も「1994年から1997年にかけてのどこか」としているぐらいである。
ただ、作品を見ていくと、96年が一番近いように思える。根拠はいくつかある。

・たまごっちが登場しない
・ポケベルがまだツールとして機能している
・A BATHING APEの服を着た人物が登場する
・「新世紀エヴァンゲリオン」放映後であり、VHS版もリリースされている。
・渋谷の街に貼られているポスターに安室奈美恵『SWEET 19 BLUES』がある


ただ、それでも、この映画がいつの時期を描いたものなのかは確定できない。
大根監督は、時代考証についてはわざとボカしていることを表明しているが、本当にその通りだからだ。
先ほど挙げたポイントで説明してみよう。
劇中で、「新世紀エヴァンゲリオン」のVHSが映るシーンがある。VHS版もリリースされていることから1996年以降であることがわかるが、1997年にならないと出ていない巻も画面中に確認されるのだ。
また、渋谷の街に貼られているポスターについても、安室奈美恵『SWEET 19 BLUES』のポスターがあることから、1996年7月から8月であると思われるが、別のカットではglobeの1stアルバムのポスターが掲示されているのが確認できる。つまり、1996年3月~4月だ。しかし、そのglobeのポスターの隣に貼られているのは、市井由理が映ったティセラのポスター。1996年3月時点でティセラを広告していたのは、KABA.ちゃんが在籍したことでも知られるdos1)ティセラのCMで使われたのはdos「Baby baby baby」だ。1996年4月15日付けのオリコン・シングルチャートで小室楽曲がTOP5を独占したことがあるが、その時に4位になったのが同曲である。なお、1位は安室奈美恵「Don’t wanna cry」。2位は華原朋美「I’m proud」。3位はglobe「FREEDOM」。5位はtrf「Love&Peace Forever」。市井由理がCMキャラを務めていたのは1995年のことである……といったように、いろいろとずれているのだ。
教室にいる女の子が全員コギャルという世界観、センター街に街路樹があるというファンタジーが許容されていることも考慮すると、当時のあの空気感を出すために、そこら辺をわざとぼかしているのだと思われる。2)見栄えさえよければ、リアルな時代を描いていてもぼかしていいんだと気づいた私は、「bye bye blackbird…」において、当時は存在しないx-girlのチェスターコートというアイテムを登場させたわけである

ただ、ここで、注目したいことがある。それは劇中で流れる楽曲だ。
以下に、各曲のアーティスト名とタイトル、リリース時期を書き出してみよう。

・安室奈美恵「SWEET 19 BLUES」 1996年7月
・Chara「やさしい気持ち」 1997年4月
・森田童子「ぼくたちの失敗」 1976年(1993年1月)
・小沢健二「強い気持ち・強い愛」 1995年2月
・trf「survival dAnce」 1994年5月
・安室奈美恵「Don’t wanna cry」 1996年3月
・JUDY AND MARY「そばかす」 1996年2月
・久保田利伸「LA・LA・LA LOVE SONG」 1996年5月
・trf「EZ DO DANCE」 1993年6月
・PUFFY「これが私の生きる道」 1996年10月
・hitomi「CANDY GIRL」 1995年4月


まず説明が必要だと思われるのは、森田童子「ぼくたちの失敗」。唯一、90年代の楽曲ではない同曲だが、1993年1月に放映され話題を呼んだドラマ「高校教師」の主題歌として、リヴァイヴァル・ヒットした経緯がある。本作への起用もそこを踏まえてのもので、90年代のヒット曲としての起用だろう。

そこを抑えた上で見直してみると、11曲中5曲が1996年であること、一番古いもので1993年であることがわかるはずだ。逆に一番新しい曲はChara「やさしい気持ち」。同曲は「ティセラ」のCMとして1997年3月からテレビで流れていたものだ。
以上を踏まえて見直してみると、このリストは1994年4月に高校に入学した女の子の青春時代を象徴するプレイリストだと解釈できる。
「ぼくたちの失敗」「EZ DO DANCE」は高校に上がる前に触れたであろう音楽として。そして、「やさしい気持ち」は高校の卒業式後、次の生活がスタートするまでのモラトリアムの時期に聴いたであろう楽曲として。1997年4月以降に流行った音楽がまるで本編に出てこないのも、そう考えると頷ける。
『SUNNY』がいつを舞台としたものかは正確には特定できないが、「1994年4月に高校に入学し、1997年3月に高校を卒業した人」が過ごした高3の頃になるのではないだろうか。記憶は曖昧なものだから、高校時代に聴いた音楽の記憶なんかは混ざりがち。劇中で流れた音楽はリアルタイムに流れていたBGMとしてではなく、高校時代を象徴するものとして選ばれた、ということではないだろうか。そこら辺、映画『アメリカン・グラフィティ』で「オール・サマー・ロング」が使われていることと同じようなものだろう。
話は逸れたが、劇中で流れるヒット曲から考えるに、この映画が一番刺さるのは、1994年3月に高校に入学し、1997年3月に高校を卒業した人たちかもしれない。

私が過ごした1996年あたり

私は、劇中の時代、リアルタイムで高校生だった。だから、作品の内容が刺さりまくった。
〈あの頃の私たち〉と〈今の私たち〉を並列で見せて、そこから〈今の私たち〉を肯定するみたいな手法はベタだけど、よい。胸にグサグサ刺さった。
私は劇中で描かれるコギャルほどきらきらしていなかったが3)なにせ、渋谷系直撃世代の男子である、うちらのグループもあんな感じでバカなことを高校生時代にやっていたなと思い出して、泣いてしまった。
夜中に河原で花火遊びをしたなとか、夏休みは合コンしまくったなとか、DJパーティーを手作りでやったなとか、学祭の出し物で儲けたなとか、G-SHOCKやエアマックスを自慢しあったなとか4)でも、私はどっちかというと、SPOONでリーボック派だったけども
劇中で流れた音楽でいえば、小沢くんの「強い気持ち 強い愛」以外はそれほど思い入れはないのだが、当時合コンで行ったカラオケやボウリングでよく聴いた曲ばかりだなと思い、なんか青臭い気分になってしまった。
僕らにもアホな物語は多々あったわけだが、当時合コンで会ったいくつもの女の子グループにも、それぞれ彼女らの物語があったんだなと思い、はっとさせられた。

これは以前から何度か指摘してきたことだが、最近の青春小説を標榜するものには、いけてない人たち、クラスの隅っこにいる人たちの〈良かった探し〉みたいな話がとにかく多すぎる。辟易する。ゆえに、こういう、みんなで楽しくわいわいやってるけども、一方で不器用な奴らが出てくる話にはほっとさせられる。素晴らしい映画だと思う。

さいごに

劇中でも描かれたように、当時はドラッグ5)スピード、MDMA、2CB、合法ハーブなどが有名を高校生でも手軽に入手できる時代になっていた。援助交際にブルセラがコギャルとセットで語られる時代でもあった。
社会がコギャルを持て囃し、コギャルが時代を牽引していた一方で、彼女らを食い物にしようとする大人たちも台頭してきたのが1996年頃であった。今にして思うと、コギャルがピュアにきらきらできていたのは1996年ぐらいまでといえる。以降、コギャルはTVでバラエティ的に消費され、大人たちに食い物にされていく。
コギャルがピュアに一番強かった時代を描いたもの。それが本作だと思う。

註釈   [ + ]

1. ティセラのCMで使われたのはdos「Baby baby baby」だ。1996年4月15日付けのオリコン・シングルチャートで小室楽曲がTOP5を独占したことがあるが、その時に4位になったのが同曲である。なお、1位は安室奈美恵「Don’t wanna cry」。2位は華原朋美「I’m proud」。3位はglobe「FREEDOM」。5位はtrf「Love&Peace Forever」
2. 見栄えさえよければ、リアルな時代を描いていてもぼかしていいんだと気づいた私は、「bye bye blackbird…」において、当時は存在しないx-girlのチェスターコートというアイテムを登場させたわけである
3. なにせ、渋谷系直撃世代の男子である
4. でも、私はどっちかというと、SPOONでリーボック派だったけども
5. スピード、MDMA、2CB、合法ハーブなどが有名

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