ミステリファンにおすすめしたい「フィニアスとファーブ」の傑作回 その1

ミステリファンにおすすめしたい「フィニアスとファーブ」の傑作回 その1

2019年3月26日よりサービスを開始したディズニーデラックスを皆さん、ご存知だろうか。動画配信サービスが目玉コンテンツで、ディズニー、ディズニー/ピクサー、〈スター・ウォーズ〉シリーズ、マーベルの映像作品が視聴可能だというのだから、映画ファンならば加入しておいて損はないのだが。同サービスで、ついにアニメ「フィニアスとファーブ」の第2シーズンが配信された。今回はそれについて書きたい。

はじめに

2年ほど前、私は『奇想天外 21世紀アンソロジー』という本のお手伝いをした。非常にハチャメチャな本だったが、同誌に「奇想天外史上最強ミステリ映画祭『これを観ずに死ねるか!』ミステリ映画マイナス10」という企画があった。

企画の主旨としては、「あなたの考えるミステリ映画ベスト10を挙げてください。ただし、世評の高いミステリ映画は入れてはダメですよ」というもの。企画名の「マイナス10」というのは、ポピュラーなものは外して選ぶことに由来する。

私はディズニー作品にしぼって、10本を選んだ。以下、引用する。

(1)ロジャー・ラビット(1988年アメリカ)[☆☆☆☆★]
(2)ベイマックス(2014年アメリカ)[☆☆☆★★]
(3)ズートピア(2016年アメリカ)[☆☆☆☆]
(4)カーズ2(2011年アメリカ)[☆☆☆]
(5)シャム猫FBI ニャンタッチャブル(1965年アメリカ)[☆☆☆]
(6)マレフィセント(2014年アメリカ)[☆☆☆★★★]
(7)シュガー・ラッシュ(2012年アメリカ)[☆☆☆★]
(8)ファインディング・ドリー(2016年アメリカ)[☆☆☆★]
(9)フィニアスとファーブ 第30話B 名探偵キャンディス(2009年アメリカ)[☆☆☆★★★]
(10)ウォーリー(2008年アメリカ)[☆☆☆☆★★]

※(1)はアニメと実写の合成。(5)(6)は実写。それ以外はすべてアニメ

☆が約20点、★が約5点。満点の☆☆☆☆☆はなく、☆☆☆☆★★が最高点。
☆☆☆☆以上=ダンゼン優秀。☆☆☆★★★=上出来の部類。
☆☆☆★★と☆☆☆★=見ておいていい作品。☆☆☆=水準程度。
☆☆★★★=水準以下だが多少の興味あり。☆☆★★以下=好事家だけどうぞ。
評価の基準は「ミステリファンとして楽しめるか」。

勘が鋭い方なら、もうお解りだろう。
双葉十三郎さんの『ぼくの採点表』方式を採用したわけである。

それはさておき、今見直してみると、この10本はちょっと不親切だ。
というのも、(5)と(9)は未ソフト化だからである。
中でも、一番文字数を多く費やしているのは(9)だから、不親切にすぎる。
しかも、ここまで煽っているのに……

推理の基本を説く「Elementary」が挿入歌として流れる⑨(原題は「Elementary My Dear Stacy」である)は007とホームズのパロディ。ホームズの冒険譚にハマった意地悪な姉が旅行先のロンドンで弟たちのいたずらを暴こうと、インバネスコートに鹿撃ち帽という出で立ちで迷推理を始める……というのがあらすじだ。なお、「フィニアスとファーブ」では〈ハードボイルド私立探偵もの〉な44話B「ファインディング・メアリー」(☆☆★★★)、『メメント』オマージュな80話B「ペリーの失われた記憶」(☆☆☆☆)も必見。

紹介した3作を、なんとかして観られないかと相談を受けたこともある。「ソフト化されていないけど、CATVのディズニー・チャンネルでいつかやるはずだから、毎日チェックしてみてください」――そんな答えしかできなかったわけだが、そんな日々ももう終わり。なぜなら、ディズニー・シアターで配信が始まったからだ。
ということで、今回は第30話B「名探偵キャンディス」と44話B「ファインディング・メアリー」をご紹介しよう。

その前に、「フィニアスとファーブ」とは?

「フィニアスとファーブ」は2007年から2015年にかけてディズニー・チャンネルで放映されたアメリカのアニメである1)日本では、2008年から2015年にかけて
主人公はアメリカのダンヴィルという町に暮らす、フィニアスとファーブという少年たち。彼らには義兄弟で、キャンディスという姉と、ペリーというカモノハシのペットがいる。

フィニアスとファーブは友だちと夏休みを楽しむために、毎日発明に精を出す。ロケットにナノボット、タイムマシン、巨大ジェットコースターなど。オーバーテクノロジーにもほどがあるものを作るのだ。
2人のお目付け役を自認するキャンディスは、2人がいたずらをしているものと思い込み、母のリンダに告げ口をしようとする。しかし、リンダはキャンディスの言うことを取り合おうとしない。
一方、その頃、カモノハシのペリーはフィニアスの自宅地下にある謎の施設に召喚される。ペリーを呼び出したのは、O.W.C.Aという組織のモノグラム大佐。大佐はペリーに、「悪の科学者」を自称するドゥーフェンシュマーツ博士の悪事を止めるよう依頼する。そう、ペリーは腕利きのエージェントだったのだ!
夏休みをエンジョイするフィニアスらと、彼らのことを母親に告げ口しようとするキャンディス。ドゥーフェンシュマーツの悪事を止めるべく奮闘するペリー。この2つの物語が微妙にすれ違いながら進んでいく。
終盤、ペリーの活躍によりドゥーフェンシュマーツの悪巧みは阻止される。そして、「風が吹けば桶屋が儲かる」式にフィニアスとファーブの発明品も跡形もなく消えてしまう。満喫したフィニアスらは満足げ。キャンディスは告げ口に失敗し、落胆する。ドゥーフェンシュマーツ博士も落胆する。ペリーは素知らぬ顔でフィニアスたちのもとに戻ってくる。ペリーの正体は誰にも気づかれないまま。――これが毎回のパターンだ。

ほぼ毎回、ミュージカル・シーンがあるのも特徴のひとつだが、ロックンロール、ジャズ、ドゥーワップ、カントリー、ソウル・ミュージック、ニューウェイヴ、テクノポップとジャンルもなんでもありで、飽きが来ない。スワンピーというキャラが登場する回では、スワンプ・ロック調な曲も流れるなど、かなり凝っている。音楽ファンならば、必ず楽しめるはずだ。
物語としては、「2つの物語がどう絡み、最終的にどう着地するか」が見どころのひとつであり、そこにミステリを読むのにも似た楽しみがある。ドゥーフェンシュマーツは計画に失敗し、キャンディスが告げ口に失敗するという結末自体は毎回同じだが、そこに至るまでのプロセスが毎回予想不能で面白い。大人も十分に楽しめるアニメだ。
なお、特番的に放映されたテレビ映画はソフト化されており、中にはマーヴェルのヒーローと共演したものもある。2)なお、2013年に放映されたマーヴェルとの共演作にはスパイダーマンも登場する。つまり、『キャプテン・アメリカ/シビルウォー』以前に、スパイダーマンがアイアンマンと共演しているわけである!

第30話B「名探偵キャンディス」

フィニアス一家とキャンディスの友人ステイシーはイギリス旅行に出かける。
ロンドンでの観光中にフィニアスとファーブは別行動をとる。いつものように告げ口しようと2人を尾行するキャンディス。しかし、彼女は前日に読んだシャーロック・ホームズの物語のせいで、ホームズ気取り。ステイシーのことをワトソン君と呼び、フィニアスらの無意味な行動を勝手に手がかりと思い込んで、ホームズ流に推理を始めだす。
一方その頃、同じくイギリス旅行だったペリーのもとに指示が出る。地元のエージェント000(ダブルオーオー)と組んで、ドゥーフェンシュマーツ博士の悪事3)歳をとって腕時計の文字が見えづらくなってきたので、もっと大きな文字――ビッグベンで時間を確認するために、アメリカの自宅のすぐ前にビッグベンを移転させようというものを止めろというのだ。000は自分の流儀、つまり007流に事件を解決しようとする。ペリーは、途中で007流に見切りをつけ、自分のいつものスタイルで捜査を始めるのだった……。

フィニアスたちを追うキャンディスはホームズ流。
ドゥーフェンシュマーツを追う000は「007」流。
イギリスを代表する探偵とエージェントのパロディが表と裏で繰り広げられ、いずれも失敗するというのがオチなのだが、ペリーはいつも通り、物語を収束させる。その様がユニークだ。

なお、『奇想天外』の原稿にも書いたが、このエピソードでは、推理の基本を説く「Elementary」が挿入歌として流れる。スウィンギング・ロンドンのパロディみたいな曲で、オルガンが実にグルーヴィーだ。

第44話B「ファインディング・メアリー」

キャンディスが大事にしていた人形“メアリーちゃん人形”が、誤ってガレージセールで売りに出されてしまう。購入したのはドゥーフェンシュマーツ博士。ドゥーフは別れた妻の家をたずね、実娘のヴァネッサにメアリーちゃん人形をプレゼントする。ヴァネッサが以前からメアリーちゃん人形を欲しがっていたからだ。
一方、その頃、フィニアスとファーブは古い探偵ドラマ(1950年代のハードボイルドもの)にハマってしまい、ハードボイルドごっこを始める。周囲を白黒にし、ファーブはサックスを吹いて、この手のハードボイルド映画によくあるBGM風な音楽をかける。フィニアスはハードボイルド小説にありがちなモノローグを呟く。

暑くて退屈な日のこと。彼女は何か言いたげに部屋に入ってきた。歩き方からそう思えたが、脚にあせもができていたのかも。

キャンディスはフィニアスとファーブにメアリーちゃん人形の捜索を依頼する。2人は、白衣の男がメアリーちゃん人形を買っていったことを突き止めると、街に出て白衣の男について聞いてまわるのだった。
一方その頃、自宅に戻ったドゥーフェンシュマーツ博士はいつものように悪巧みを始めようとしていたが、肝心の発明を起動させようにも装置のスイッチが見つからず困り果てている。とりあえず、何か良からぬことが起きそうだと、組織はペリーを派遣するのだが……。
場面は変わり、ドゥーフの前妻の家。ここでも過ちは起きてしまい、メアリーちゃん人形は寄付に出されてしまう……。

話がどんどん混乱していく中、フィニアスたちは白黒ハードボイルド映画に飽きてしまい、70年代刑事ドラマ風、80年代刑事ドラマ風、00年代刑事ドラマ風とスタイルを変えていく。
この変遷が見もので、たとえば冒頭のハードボイルド調は「ロス市警犯罪ファイル」を意識したもの(2人の衣装や喋り方、モノローグが似ている)なのだが、70年代風で「刑事スタスキー&ハッチ」(赤い車と、フィニアスの着ているセーターはモロ!)、80年代風で「マイアミ・バイス」(2人はボートに乗っている!)、00年代風で「CSI:マイアミ」(ハマーに乗っているし、The Whoの「無法の世界」っぽい曲が一瞬流れる!)と、 わかる人にわかるパロディを次々に繰り出してくるのである。こういうところがいちいちニクい。

「ロス市警犯罪ファイル」
「 刑事スタスキー&ハッチ」のオープニング
「マイアミ・バイス」のボートといえば
「CSI:マイアミ」では「無法の世界」が使用された

件の同人誌は監修者が本格ミステリ寄りの方だったので、遠慮して「☆☆★★★」とさせてもらったが、個人的には「☆☆☆☆★」を付けたくなるレベル。映画『トイ・ストーリー2』を下敷きとしているだろう点も加点した理由だ。
とにかく、ハードボイルドにとどまらず、刑事ドラマの歴史を駆け足でおさらいしていくその姿勢を高く評価したい。マジでおすすめですぜ。

註釈   [ + ]

1. 日本では、2008年から2015年にかけて
2. なお、2013年に放映されたマーヴェルとの共演作にはスパイダーマンも登場する。つまり、『キャプテン・アメリカ/シビルウォー』以前に、スパイダーマンがアイアンマンと共演しているわけである!
3. 歳をとって腕時計の文字が見えづらくなってきたので、もっと大きな文字――ビッグベンで時間を確認するために、アメリカの自宅のすぐ前にビッグベンを移転させようというもの

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