『平成ストライク』全話紹介

『平成ストライク』全話紹介

今回は、『平成ストライク』(南雲堂)に収録した全9話について、簡単に紹介しようと思う。
以前ここでも書いたが、『平成ストライク』のコンセプトは〈平成の時代に、日本で実際に起こった事件、日本で実際に流行ったものをテーマに、作家に小説を書いてもらう〉というものだ。
私は各作家に次のように伝えた。依頼状に書いたことをそのまま引用する。

私からいくつかテーマを出しますが、その中でしっくりくるものがなければ、平成に起こった事件/平成に流行ったもので「これを書きたい!」というもの、「これこそが平成を象徴していると自分は思う!」というものを挙げていただいても構いません。
いくつかのテーマを複合させて書いてもOKです。ご自身のシリーズ探偵を登場させても問題ありません。

無茶振りもいいところである。そんな無茶ぶりに各作家はどう応えてくれたのか。今からそれをここに記したい。

青崎有吾「加速してゆく」

青崎さんが選んだのは「福知山線脱線事故」。オファーしたその日から、青崎さんは福知山線脱線事故で書きたいと仰っていた。
青崎さんが描いたのは、福知山線脱線事故にざわついた人たち。
青崎さんのターニング・ポイントとなるような作品になったのではないかと思う。リアリティの上に立脚する確かなフィクション。ビターな読後感も最高だ。

井上夢人「炎上屋尊徳」

井上さんがテーマとして選んだのは、ネットにおける炎上。
炎上事件を裏で操る炎上屋が本作には登場する。実際に起きたネット炎上事件を想起させる事件も作中に出てくる。
平成10年以降、つまり2ちゃんねる以後に、誰もが怖れるようになった炎上。平成になって誕生した新たな人災を、井上がどう描くのか。そこに注目だ。

千澤のり子「半分オトナ」

千澤さんとは今まで何度も組んできたが、私はその度に思うのである。この人ほど、偽善や自己満足を嫌っている1)あるいは苦手としている人はそういないよなと。それらに対するセンサーがとにかく優れているし、それらを評する言葉がとにかくえげつない。
そんな彼女がテーマに選んだのは、二分の一成人式。そう。偽善と自己満足に彩られたイベントである(個人の感想です)。千澤にぴったりのテーマではないだろうか。

遊井かなめ「bye bye blackbird…」

私がテーマに選んだのは渋谷系。舞台に選んだのは、平成11年12月25日。六本木WAVE最後の日だ。
吉祥寺のピンサロ、渋谷のタワーレコード、新宿の裏ビデオ屋などをめぐりながら、〈変わりゆく価値観〉や〈移りゆく東京の景色〉みたいなものも描いた話。

小森健太朗「白黒館の殺人」

小森さんには今回、〈コミケ〉をテーマにするか、『コミケ殺人事件』のスピンオフをオファーした。小森さんは後者で応えてくれた。
本作は元々25年前に構想されたもので、探偵役には『コミケ殺人事件』の作中作に登場する栗生慎太郎が起用される予定だったのだという。後に同人誌に発表されたが、そこで探偵役を務めたのは別のキャラクター。しかし、今回、小森さんは栗生を探偵役にして改稿してくれた。
本格ミステリの熱心なファンであれば、本作を読んで、「あれ、これって?」と思うはずだ。

白井智之「ラビットボールの切断」

当初、白井さんからは監禁ものを提案されわくわくしたのだが、途中でテーマが変更。新たなテーマとして上がってきたのが、新宗教だった。私はもっとわくわくした。これは、絶対にヤバくて、アンモラルなものがくると。
女性信者たちが1人の男性教祖とともに共同生活を営んでいて、彼女たちは交代で教祖にオーラルセックスで奉仕している。そんなある日、男性器を切り取られた教祖の死体が発見され――というあらすじだ。白井智之は白井智之だった。

乾くるみ「消費税狂騒曲」

乾くるみさんから消費税をテーマにしたいと打ち明けられたのは10月も末。どういうストーリーになるかはまだ決まっていないが、消費税をテーマにしたいのだという。まったく見当もつかない。だから、私はゴーサインを出した。予想がつかない話って、最高じゃないですか。
上がってきたのは、消費税の税率の変遷を軸に、歳を重ねていく人びとの姿を描くというもの。『平成ストライク』のコンセプトのひとつには、平成を振り返るというものがあるのだが、それとも合致した話だ。素晴らしい。編集者としては、こういう話は一本欲しかったのである。

貫井徳郎「他人の不幸は密の味」

貫井さんがテーマに選んだのはネットにおける冤罪。
平成ネット史で必ず話題にのぼるだろうネット冤罪を下敷きにして、貫井さんはネットに書き込んでしまう人を描く。心理描写がとにかく素晴らしい〈奇妙な味〉の傑作。
サイバーミステリの時代だからこそ産まれた“平成の祭”を貫井さんはどう見たのか。祭りに浮かれる心理をどう見るのか。そこに注目してもらいたい。

天祢涼「From The New World」

締切は12月だった。天祢さんから最初に原稿を受け取ったのは、10月のことだった。私はその原稿を読んだ時点で、この作品を最後に据えることを决めていた。
「天祢さんのシリーズ探偵である音宮美夜を登場させてください」。そのようにオファーしたのは、南雲堂から企画にゴーが出た六月のことだった。天祢さんは快諾してくれた。
天祢さんから東日本大震災をテーマにしたいという申し出があったときになんとなく予感はあった。この人なら、『平成ストライク』をきちんと終わらせてくれるだろうと。
天祢さんは震災から一年後の福島を舞台とする小説を書いた。美夜が最後に示すストレートなメッセージは本書を締め括るにふさわしいものだと思う。

註釈   [ + ]

1. あるいは苦手としている

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