SMAPを通して日本ポップス史を観ることについて

SMAPを通して日本ポップス史を観ることについて

SMAPが解散するかもというニュースを見て、驚いたところである。
私の母が20年以上も彼らのファンであり、彼らの音楽は耳にしていただけに、正直ショックも大きい。
さて、SMAPといえば、音楽ファン、特に洋楽ファンがよく話題にするのが、1995年にリリースされた『007~Gold Singer』での一流ミュージシャンの起用である。

実際、バーナード・パーディー、チャック・レイニー、デイヴィッド・T・ウォーカー、マイケル・ブレッカー、オマール・ハキム、ウィル・リー、ヴィニー・カリウタ、デニス・チェンバース、ワーワー・ワトソンといった腕利きのミュージシャンたちが同盤には参加しており、これには驚くより他にない。
確かに、ワーワー・ワトソンのギターをフューチャーした〈Wah Wah Version〉と題された「KANSHAして」のアルバム・ヴァージョンをはじめ、SMAPのイメージからは遠い所にあるだろう、黒くて濃いファンキーなナンバーがずらりと並ぶアルバムには面食らう人もいるかもしれない。
ただ、SMAPといえば、実は見逃せないのが、同時代の旬のミュージシャン、旬の音楽への目配せの効かせ方である。
たとえば、前述のアルバムを受けて行われたツアー“SUMMER MINNA ATUMARE PARTY”では、ソロ・コーナーにおいて稲垣吾郎がカーディガンズの「カーニヴァル」を披露している。これがどれだけ凄いことかといえば、同曲が収録されたアルバム『ライフ』がリリースされたのが同年3月であり、このツアー自体は同年7月から9月にかけて行われたということからもわかるように、その消化のスピードがとにかく早いということである。しかも、当時はインターネットが今ほど普及していない時代。口コミでポップス・ファンの間でスウェディッシュ・ポップが話題になっていたとはいえ、96~97年のブーム的な盛り上がりもまだ起こっていなかった頃である[1]たとえば、コアなギター・ポップス・ファンが読んでいた『米国音楽』だと95年2月に発売されたVol.4の時点で既に「SWEDISH POP … Continue reading。スタッフも含めたSMAPの嗅覚の鋭さには感服せざるをえない。
前述の『007』にしても、同アルバムのアート・ディレクターを務めたのは、渋谷系周辺のデザインを多く手がけていた信藤三雄であり、こういった所にもSMAPサイドの〈旬の音楽への目配せの効かせ方〉を伺い知ることはできるだろう。

嗅覚の鋭さについては、97年に山崎まさよしの「セロリ」をカヴァーしたことからもわかるだろうが、同年にリリースされた『SMAP011 ス』では東京スカパラダイスオーケストラとコラボし、この頃から彼らは旬のミュージシャンとも、より積極的に絡むようになる。そうやってリリースされたのが98年のスガシカオの曲提供による「夜空ノムコウ」なのである。

ここで、SMAPの近年のアルバムの曲提供者やコラボした相手を見てもらいたい。
すると、彼ら(というよりスタッフ)が常に最前線にいようとしていたことがわかるはずだ。中田ヤスタカ、Aqua Timez、凛として時雨、ヒャダイン、ナオト・インティライミ、THE BAWDIES、相対性理論、山口一郎(サカナクション)、LOVE PSYCHEDELICOなど……。槇原敬之、椎名林檎、田島貴男、菅野よう子のような“大物”に曲を書いてもらう一方で、積極的に若い名前、旬の名前と絡んできたのである。なにせ小室哲哉というカードを切ったのも、2010年。つまり、件の事件後に復帰してから、である。そして、最新シングルのB面曲では川谷絵音(ゲスの極み乙女)から曲提供を受けているのだ。さらにいえば、SMAPはSMAPショップ10周年を記念したシングル曲(というよりも、SMAPメンバーのしゃべりをパーティー・チューンに仕立てたお遊び曲)でtofubeatsとコラボしており[2]なお、去年発売のシングル「華麗なる逆襲」には同曲のtofubeatsによるリミックスが収録されている、ここいらの抜け目なさからもわかるように、SMAP(というか、そのスタッフ)が音楽的に最先端にいようとした、刺激的なことをやろうとしたとことがわかる。
ゆえに、90年代後半の日本のポップス史を探ろうとするならば、SMAPのアルバムとシングルを丹念に追えば、ある程度の理解はできるのではないかというのが、私の持論である。 

さいごに

SMAPに「This Is Love」(2010)というシングル曲がある。

作詞・作曲、プロデュースはLOVE PSYCHEDELICO。一聴してわかるように、マイケル・ジャクソン「ブラック・オア・ホワイト」を下敷きにした曲である。ギターのリフのみならず、Aメロの解決のさせ方は歌詞も含めてそのまんま。
メンバーの話によると、最初から方向性として“マイケル”が設定されていたようだ。タイトルも映画『This Is It』を意識していることは間違いない。[3]なお、SMAPとマイケルといえば、同年に行われたツアー “We are SMAP! 2010 SMAP CONCERT TOUR” では中居のソロ曲「Memory … Continue reading

さて、「This Is Love」はSMAPの楽曲では珍しく、エレキ・ギターが目立っている。表テーマとしては“マイケル”があったのだろうが、裏テーマとしては“70年代ロックの手触り”があったのだろう。「ブラック・オア・ホワイト」そのものにもそういう趣向はあったが、「This Is Love」では、さらにそれが強調された恰好だ。
このことを裏付けるものとして、同曲のギター・ソロがエアロスミスの「Walk This Way」の超有名リフから引用されたものであることも挙げられるだろう。マイケル一辺倒ではなく、日本人にとっても馴染みのあるわかりやすい洋楽ギター・ロックが志向されたのだ。
80年代以降HR/HMのギタリストたちとの積極的なコラボによって従来の黒人音楽からの脱却をはかろうとしたマイケルを共通言語に、“70年代ロック”をリアルで体験できなかったLOVE PSYCHEDELICOとSMAPが70年代へアプローチするという構図が、同曲からは見て取れる。いろいろな憧れがごちゃまぜになった曲であり、それがわかりやすいまま、少しだけ捻った形で提示されている。こんな〈お遊び〉を、日本ポップス史上に残るアイドルがさらりとやってしまうということ。こういうところがいちいち彼らはかっこよかったのである。

註釈

註釈
1 たとえば、コアなギター・ポップス・ファンが読んでいた『米国音楽』だと95年2月に発売されたVol.4の時点で既に「SWEDISH POP BREEZE」という特集を組んでいるが、まだ扱いは小さい。同年夏に出た「米国音楽」の別冊「Early Summer Special Issue」でスウェディッシュ・ポップスが特集されたが、当時のコアなギター・ポップス・ファンにとっても、まだまだ“今、来始めているもの”でしかなかったのだ
2 なお、去年発売のシングル「華麗なる逆襲」には同曲のtofubeatsによるリミックスが収録されている
3 なお、SMAPとマイケルといえば、同年に行われたツアー “We are SMAP! 2010 SMAP CONCERT TOUR” では中居のソロ曲「Memory ~June~」の間奏において、マイケル風な衣装を着た中居が「今夜はビート・イット」「スリラー」「ジャム」「デンジャラス」「スムース・クリミナル」といったマイケル楽曲のメドレーをダンスで披露する一幕があった。おふざけ一切なしで、7分もの間、真剣に踊る中居の姿が印象的。ただし、同ツアーの模様を収録したDVDでは、権利上の関係でこのくだりは全編カットされている。残念だ。