ランブリン・ジャック・エリオット『A Stranger Here』

ランブリン・ジャック・エリオット『A Stranger Here』

ランブリン・ジャック・エリオット、7年ぶりの新作がリリースされた。

ウディ・ガスリーに師事し、歌とギターを学んだフォーク・シンガー、ジャック・エリオット。
彼がディランの憧れの人であり、ディランのローリング・サンダー・レヴュー・ツアーにも参加したことは、ディランのファンならば御存知だとは思うが、彼が78歳にして出した新作が今回のアルバムだ。
プロデューサーは、ソロモン・バークやエルヴィス・コステロなどのプロデュースでも知られ、ディランを6人の俳優が演じた映画『アイム・ナット・ゼア』の音楽を担当し、自身もシンガー・ソングライターとして活動しているジョー・ヘンリー。

ちなみに、上述の映画『アイム・ナット・ゼア』用にディランの「親指トムのブルースのように」をジャック・エリオットにカバーしてもらったことをきっかけに、
ジョー・ヘンリーは今回のアルバムの制作を思いついたそうだ。

さて、『ア・ストレンジャー・ヒア』は、従来のジャック・エリオットのアルバムとは違って、全編バンド形式で録音されている。
バンドのメンバーにグレッグ・リースや、ディランの新作にも参加していたデビッド・イダルゴ、そして昨年はランディ・ニューマンやイナラ・ジョージやブライアン・ウィルソンのアルバムに参加したヴァン・ダイク・パークスが名を連ねているあたり、アメリカン・ルーツ・ミュージック・ファンとしては嬉しくなるところだ。

今作は全編カバー。それも全て大恐慌時代のブルースである。
ブラインド・レモン・ジェファーソン、レヴァレンド・ゲイリー・デイビス、ロニー・ジョンソン、ブラインド・ウィリー・ジョンソン、ミシシッピ・ジョン・ハート、サン・ハウス、タンパ・レッド、ファーリー・ルイス、リロイ・カー、ウォルター・デイビス。
ロック・ファンにもブルース・ファンにも馴染みのある名前ばかりだと思う。

考えてみれば。ジャック・エリオットもその時代に名を連ねた60年代当初のアメリカでのフォーク・ブームというのは、20年代~30年代のヒルビリーやブルースの再発見という意味もあった。ハリー・スミスが編んだ『Anthology Of American Folk Music』というオムニバスなどは、その動きを触発した最たるものであり、そこからディランなどが刺激を受けている。

ところで、大恐慌時代というのは、まさにその20~30年代のことである。?
実際、『Anthology~』にはブラインド・レモン・ジェファーソンとブラインド・ウィリー・ジョンソンとミシシッピ・ジョン・ハートの曲が収録されている。
つまり、今回のアルバムは、もちろん現在の世界的不況と大恐慌時代をダブらせて、なんらかのメッセージを送ろうとしているのは明らかだが、現代の『Anthology~』とも言えるアルバムを、ジャック・エリオットというリヴィング・レジェンドに歌わせて作ろうという意図もあるように思える。

また、このアルバムに込められたメッセージだが、ストレートな応援メッセージでも、ストレートに希望に満ちたものでもない。 哀切漂う曲もあれば、賛美歌もある。
そこから何を読みとるのか。 じっくりと付き合えそうなアルバムである。