ドニー・フリッツ『ONE FOOT IN THE GROOVE』

ドニー・フリッツ『ONE FOOT IN THE GROOVE』

相変わらずレコード屋で新たなレコードとの出会いを日々楽しんでいるのだが。
どうも、そんなに話題になっていないようので、最近出会ったレコードの中から今回1枚だけ取り上げておきます。ドニー・フリッツ『ONE FOOT IN THE GROOVE』だ。

マスルショールズでソングライターとして活躍し、ダスティ・スプリングフィールドやアーマ・トーマスやパーシー・スレッジに曲提供もしているドニー・フリッツ。74年に、マスルショールズのミュージシャンをバックに、アトランティックからソロ1枚目となったアルバム『Proan To Lean』をリリース。現在では名盤探検隊からCD化もされ、スワンプ・ロック・ファンからは密かな名盤として知られているわけだが。以後、34年間でアルバムは2枚しか出ておらず、つまり今回の11年ぶりの新譜が、3枚目のソロ・アルバムとなる。

アルバムの中で自ら語っているように、2001年から闘病生活を送っていたようで、一時は集中治療室に入り生命の危機にあっていたそうだ。後に回復してから友人に「どんな気分だい?」と尋ねられた際に、ドニーがした回答「I got one foot in the groove」という言葉遊びが今回のタイトルとなっている(got one foot in the grave=片足を墓場に突っ込んだ)。

そんな洒落た言い回しをしてしまうドニー・フリッツの新作は良い意味で古臭くて、前述の洒落た言い回し同様に心憎く。ブルースやゴスペル、R&Bやカントリー。そこいらに根差した、オヤジ好みの音楽。南部といえばのチキンものと言うわけか、「Chicken Drippings」という新曲も収録されていて、ニヤリとさせられる。

ダン・ペンをプロデューサーに迎え、ギターにスコット・ボイヤー、ベースにデビッド・フッド、キーボードにスプーナー・オールダムという猛者がバックを固め、数曲でトニー・ジョー・ホワイトがファンキーなギターとハーモニカを聴かせてくれているという、オールド・ファンにはたまらない作品だ。

ドニー・フリッツと言えば、歌という点に関しては昔から指摘されてきたように弱さが目立つわけだが、歳相応の枯れ具合が素晴らしくて。
クラプトンとJJケイルの共演アルバムでも感じたことだけど、かつては絶対に何センチかは背伸びしてやっていたはずで、そこに年齢が追いついて相応になったというか。確かに、背伸びする勇気みたいのが讃えられがちではあるけども、僕はむしろ老いにこそ魅力を感じてしまって。この老いっぷりこそがかっこいいと言うか。

クラプトンだと「Tears In The Heaven」の方が、ドミノスでやっていた「Key To The Highway」よりも彼自身のブルースだと言うか。今回のドニー・フリッツのアルバムだと「Nothing But The Blues」みたいなタイトルからして素晴らしい曲かな。この老いた感じが溜まらなくて。

しかし、不思議な人だ。ソロ1枚目のジャケット写真に写る彼よりも、今回のジャケット写真の方が若く見えるという(笑) 。そこはひょっとしたら、ディランの『時代は変わる』のジャケット写真みたいなものかも。わざと年寄りに見せようとしたというか。
そこいらも含めて、自然に老いた感じが非常にかっこいいアルバム。とりあえず今はユニオンでお買い求めください。その内、タワーとかにも並ぶことを願いつつ。